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開局てすと
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ss(短編)のまとめです。 順序は投下された順にしているつもりです。 20話ごとに分けています。 数学「これを公式に当てはめて、答えがこう!わかった?」 「それ・・計算間違ってない?」 数学「ふぇっ?あぁぁぁ!!(///)」 数学「おねえちゃん、助けて!」 物理「どうしたの数学。」 数学「この問題が分からないの。どうやって解けばいいの?」 物理「それはね・・・これをこうして・・・」 数学「良く分かったよ。ありがとうおねえちゃん」 物理「お礼に私の実験に付き合ってね(ハァト)」 数学「ふぇええええ?」 英語「この単語の発音は分かるかな?」 現代文「分かりません」 古文「分かりません」 漢文「分かりません」 英語「そうか。みんな分からないのね。じゃあ教えてあげるわ」 そう言うと英語は現代文の口にキスをして口を動かした 現代文「えええええええ?!!何?!何?!」 英語「発音の仕方を教えただけじゃないの。何か驚く事でも?」 その後古文漢文が逃げ出したのは言うまでもない。 各人が「世の中で一番強い物は何か」について議論していた。 政治経済「みんな間違ってるで。所詮な、世の中金やねん。金の力が一番強いんや。」 数学「そんな事ないよ!論理の力はお金になんか負けないからね!」 生物「一番強いのは性よ。人間である限り逃れられないわ」 古文「この世で一番強いのは文化よ。この国いる限り影響を受ける」 現代文「あら、それを言うなら言葉じゃないかしら?文化の最もたるものよ」 世界史「一番強いのは歴史だよ。人類の歴史の力は偉大なの。」 地理「ねぇねぇ地学?この地球儀買わない?」 地学「ぇ・・・。地球儀?」 保健「なにこれ、なにこれ。なんか面白いw」 地理「ちょっと、乱暴に回さないでよね。」 地学「え、えと・・・。どうしようかな。。。」 地理「レトロな感じだし部屋に置くだけでも良いよ。安くするよ!」 保健「あ、エロマンガ島はっけ~んw」 地学「///」 数学「はぁ・・・」 給食「どうした?」 数学「給食ちゃんには分からないよ・・」 給食「身長の事か」 数学「なっ・・!ち、違う!別に背が低いから給食ちゃんが羨ましいとかってそんなことはないからっ!」 給食「・・・自分からカミングアウトか、ベタで分かりやすい奴め」 数学「ぁうー・・・上から見下ろして頭なでるなぁ!」 給食「運動すりゃ多少は伸びるだろうに あ、運動できないのか」 数学「わざとらしく間をあけるなっ!確かに苦手だけど出来ないってことはないんだから!」 給食「そうか、それならみんなを誘ってバスケットボールでもやるか? それともバレーボールがいいか?」 数学「なんで高さが要求されるものばっかりなのさ!!」 給食「というかだね、好き嫌いが多すぎるんだよ、数学は。牛乳飲め牛乳」 数学「に・・苦手なものは無理なのよーぅ・・」 給食「小さいままでいいのか?」 数学「ぅー・・・わかった・・・頑張る・・・」 給食「よしよし、頑張ったらご褒美にお菓子買ってあげよう」 数学「本当!?」 給食「子供ね・・・・」 数学「子供っていうなぁっ!!!」 保健「風邪ですか?」 日本史「ぉわっ!?・・びっくりさせんじゃねぇよっ!」 保健「バレてないって何ですか?・・・まさか非合法なクスリでも・・」 日本史「テメェ・・・俺を何だと思ってんだ?」 保健「ヤクザ屋さん・・・?」 日本史「お前な・・・」 保健「冗談ですよーぅ」 日本史「リアルなんだよ、お前の発言は」 保健「ははは、よく言われますぅ」 日本史「まったく・・・まぁ、いいや・・お疲れー」 保健「お疲れ様ですー」 ― 日本史「まったく・・迂闊に口を滑らせるわけにもいかねぇな・・・」 ぬこ「にゃー」 日本史「お、よーしよし、いい子で待ってたか?今ご飯用意しまちゅからねー」 ぬこ「にゃーん」 日本史「っくぅ~・・・かぁ~いぃ~!・・ほぉ~ら、ご飯でちゅよー、た~っぷりありまちゅからね~」 ぬこ「にゃー」 保健「にゃーん」 日本史「あら、今日はお友達も連れてき・・・た・・・の・・」 保健「にゃーん」 日本史「お・・・お・・・おまっ・・・!!!!?」 保健「おま・・・おま○こ?」 日本史「あ゛あああああああああああああああああああ!!!!!??なんだ!?何でテメェがぁぁぁぁああ!!?」 美術「動かないで」 英語「oh…でもこの姿勢とても辛いデース…」 美術「でも駄目」 英語「…あとどれくらいかかりマスか?」 美術「あと少し」 英語「わかりまシタ…」 30分後 英語「あとどれくらいかかりますカ?」 美術「あと少し」 英語「少しってどれくらいデスカ?」 美術「…二時間」 英語「おだてられて話に乗ったワタシがバカでシタ…」 美術「バカ」 英語「他人に言われるとムカつきマス…」 美術「がんば(ぐっ」 英語「完全に他人事デース…」 美術「出来ましたよ!」 英語「oh!ついに解放されマシタ!」 美術「スミマセン、ご迷惑おかけしちゃって…」 英語「hahaha、気にしないでクダサーイ!」 美術「そう言ってくださると助かります」 英語「それにしても美術は絵を描いてる時と普段では別人デスネ」 美術「はぁ…いつも夢中になるとまわりが見えなくなっちゃって」 英語「それだけheartを込めて描いた絵、きっと凄いはずデスネ」 美術「えぇ、今年で最高の出来ですよ」 英語「それは楽しみデース、見せてクダサイ」 美術「どうぞ」 英語「………」 美術「どうですか?」 英語「ワタシ…こんなに胸小さくありまセーン!(ビリビリ」 美術「アッー!」 英語:とりあえずゴネる、訴えるとか言い出すが面倒になって文句をたれながら通過 現文:とりあえず今の気持ちで一文書く。 古文:とりあえず今の気持ちで一句詠む。 漢文:とりあえず今の気持ちで七言絶句。 数学:皆ランダムな量の中、確率的にはこんなものだと自分を納得させる。 物理:水量を測り他との誤差が大きすぎる、無効だからやり直せとゴネる。 化学:自前の蒸留水で水増し。 生物:この量では消費した水分を取り戻せないと熱論、ついでにただの水では吸収効率が悪いと主張。 地学:自分の分の水が用意されていたことに驚く。 体育:これも何かの試練と解釈、用意した人に感謝する。 政経:ゴネる、均等な水の配分がなされてないと主張。 美術:キレて水をぶちまける。が、それを見てインスピレーションが湧いたらしく補給なしで嬉々として通過 書道:キレて筆を取る。会心の作が出来上がるも墨をするのに水を消費、冷静になってから凹む。 保険:これも何かのプレイと解釈、変な汁が出てさらに水分消費 意中のあの人にアプローチ! 英語:積極的にゴーゴー!「I love you! I need you! I want you!」 現文:ラブレターを贈る。「拝啓、秋も近づき~・・・」 古文:目の前で一句詠む。が、肝心の掛詞が気付かれず半泣き。 漢文:目の前で自作の漢詩を披露。が、相手に全く意味が伝わらず凹む。 数学:「二人の出会いは確率的に奇跡としか言いようがありませんわ」 物理:「二人は互いの引力で引き寄せられてるの」相手は遠心力で逃げようと必死。 化学:惚れ薬を作ろうとする。自分を魅力的に見せようとかは考えない。 生物:「動物は好き?ペットを飼ってみたいとか思わない?私なんかはどうかな?」 地学:「も、もしよかったら、い、いっしょに星を観に行きませんかっ?」 地理:「旅に出てみません?」 政経:「一人より二人の方が経済的やと思うけど?」 倫理:「・・・二人が出会うのは必然、あの方もそうおっしゃってるわ」 現社:「き、近年少子化がますます進んでるようですがど、どど、どう思われますかっ?」 体育:「今度の大会で優勝したら、あの人に告白するんだ」下手すると死亡フラグ。 美術:相手をモデルにした絵を描く。が、先鋭的過ぎて理解不能 音楽:「貴方の演奏、心がこもってないわね。これは愛を謳った曲なんだから・・・ためしに誰かと付き合ってみるとかどう?」 書道:書として文字に表す。『愛』 家庭:「私料理好きなの、今度お弁当作ってあげようか?」 保険:「ねぇ、女の子の身体に興味ない?」 現文「・・・では文化祭の出し物についてですが、喫茶という案が出ておりますけど何か意見はありますか?」 家庭「あ、じゃあ私が服を作ります~、可愛いのいっぱい作るね」 政経「おいおいあんま凝ったもの作って収支大丈夫なんかいな?」 家庭「私個人で作るからいいのっ」 技術「ん、それじゃあ小道具とか設備は私がやるわ、体育は力仕事手伝ってな・・・美術は?」 美術「私も手伝いたいけど・・・私は学校全体の看板とか飾りつけやってるからあんま手伝えないかも」 現文「それじゃあ、飾りつけは技術さんが仕切ってください・・・他には?」 数学「会計は私にやらせてください!」 物理「え、わ、私も!」 漢文「物理はときおり計算合わないからやめたほうがいいネww」 物理「そ、そんなことないわよ!」 数学「物理ちゃんは端数を誤差とか言って切り捨てたりするからいけないんじゃないかなぁ?」 現社「あはは・・・あ、そういえば最近だとメイド喫茶って言うのが流行ってるみたいだけど、どうなのかな?」 保険「・・・・・・メイド?」 音楽「いいんじゃない?せっかくだから私なんか演奏しようか?BGMで」 書道「いいなそれ、私は・・・お品書きくらいかな、手伝えるのは」 生物「食べ物関係は、許可が必要・・・細菌検査とか」 現文「あ、そうですね・・・そこらへんは保険さんが得意かしら?」 保険「・・・え?あ、はいっ許可の話ですねッ!?」 政経「ボーっとしてたけど本当にわかってんの?何の許可か言うてみ」 保険「えーッと・・・風営法?」 全員「何故!?」 男子「ねぇ今暇?いっしょに回らない?」 地学「あ、いえ仕事中なので・・・きゃっ!?」 男子「いいじゃん、友達がバンドやってるから観に行こうよ」 日本「ちょっとアンタ!うちのシマで何勝手なことしとんの?」 男子「ヒッ!?」 日本「うちの従業員(モン)に手ェ出したらただじゃおかないよ!」 男子「す、すすすみませんっ!」 現文「・・・日本史さんを用心棒にってアイデアは正解みたいね」 漢文「ウチのクラス結構レベル高いからネー」 政経「まま、とりあえず侘びの言葉より注文の言葉が聞きたいなー。ケーキセットでええな?」 男子「あ、はい・・・」 現社「・・・・・・はぁ、政経さんのやりかたってどうなのかしら・・・・・・」 生物「・・・美人局・・・・・・ぼったくり喫茶」 保険「もう一つケーキ買ってくれたら・・・ちょっとだけね?」 生物「・・・のーぱん・・・おさわり喫茶」 現文「止めて!早く誰か保険さんを止めて!」 地理「ほーいお土産だよー金取るけど」 世界「あらあら真っ黒、どこ行ってきたの?」 地理「ま、いろいろとね・・・地学、これどう?隕石」 地学「・・・本物?だったら買うけど」 地理「さぁ?怪しいもんだったし300でいいや」 地学「本物だったらそんなに安くないと思うけど・・・一応調べるか、化学、研究室借りるね」 化学「どうぞー、奥の机が空いてるはずだから勝手に使って」 地理「んー・・・物理、これ買わない?」 物理「な、なんで私がそんな変な置物買わなきゃいけないのよ!?冗談じゃないわ!!」 地理「・・・・・・胸が大きくなる効果があるとか」 物理「買うわ。いくら?」 美術「・・・なぁ、これなんだ?」 地理「ああ、これ・・・古物商においてあった絵なんだけど・・・いる?」 美術「いや、ただどっかで見たような・・・」 政経「お、まさかの掘り出し物?」 美術「いきなり湧いてくるな!・・・塗りといい紙といい、贋作だな」 地理「そうかー残念」 美術「んーいや、だが結構いい勘してるぞ、安かったら買うが」 地理「お、まいどー♪書道書道ー、これさ文鎮代わりにいらない?」 書道「あーいや、それを文鎮にするセンスはないなー・・・」 保険「古代の秘薬とかはないのかしら?」 地理「え?んー、香水とかお香はあるけど」 保険「相手をメロメロにさせて一日中ケモノのようにしてしまうような媚薬とかは」 地理「いやありませんがそんなもの買って一体何をするつもりなのでしょうか保険さん」 理数系で一番は? 生物「私たちは擬人化とはいえ人間、生き物なんだから生物が一番だろ」 化学「生物の体内反応なんて所詮化学反応でしょ?wwだったら化学のほうが上ね」 生物「・・・」 物理「・・・ふんっ!その立派な化学反応も結局は物理的法則から行われてるわけだし、物理に勝てないわね」 化学「くっ・・・」 数学「・・・あ、あのぉ~、物理さんも数学を用いて法則を導いたり結果を予測したりするわけですから・・・ 数学の方が上なんじゃないでしょうか・・・」 物理「・・・ぅう・・・・・・」 化 生「・・・・・・」 数学「・・・あ、じゃあ私が一番ってことでいいですか?」 地学「・・・・・・じゃあ数学さん、数学を用いて生物の適応放散を説明できる?」 数学「ぇ・・・そ、それは・・・」 地学「ミクロ的なものの見方をすれば確かに理数系の根源は数学ね、でもそれで生物化学物理地学のすべてを説明できるわけじゃない」 数学「・・・」 地学「それぞれの分野にも得意不得意があるのだからどれが一番かなんて比べることはおかしいわ、 真理を見つける上で大事なのはどれだけ多面的な見方が出来るか、つまり私達がどれだけ力を合わせられるかってことなの」 物理「・・・ふん」 化学「・・・・・・」 生物「・・・・・・」 地学「と、いうわけで・・・・・・ ・・・・・・なんでみんなで話してるのに私だけハブられてるのよぉっ!?混ぜなさいよッ!!」 化学「え、いやだっていつも一人で本読んでるし」 物理「なんか邪魔しちゃ悪いかなーって」 生物「・・・・・・寂しかっただけなのね」 科目ネタでしりとり。物理の「り」から 物理「り・・・流動!」 政経「ウォルマート」 音楽「ト音記号」 地理「ウクライナ」 保健「中出し」 物理「・・・シュレディンガーの猫」 政経「コストパフォーマンス」 音楽「ス、ス・・・ストラヴィンスキー!」 地理「一体誰だよ・・・イタリア」 保健「アナル」 物理「・・・・・・」 地理「・・・ちょっとまって、それ保健ネタ?」 保健「当然よ・・・え、何でみんな目をそらすのよぅ?」 音楽「えーっと・・・物理の"つ"からな、はい物理」 物理「つ、対消滅」 保健「な、何で私飛ばされてるの?ねぇ?」
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七夕ss改め、スーパー逢真大戦ss(命名 ワカさん) 7月7日、七夕。 ここ、芥辺境藩国であるイベントが起きようとしていた。 ゲドー「……ハナビ……ですか」 荒川「そう。花火」 ゲドー「それをどうするんですか?」 荒川「夜の……そうだな、7時ぐらいになったら、近くのオアシスから打ち上げるんだ」 ゲドー「打ち上げるって……空に、ですか?」 荒川「もちろん。聞いた話しじゃ綺麗らしいぞ?」 ゲドー「そうなんですか……(アンジュを誘って見に行こうかな?)」 荒川「私はここに残るから、楽しんできてくれ。皆で」 ゲドー「藩王は見に行かないんですか?」 荒川「いや、ここからでも多分見れるからね。ここから見るよ」 ゲドー「そうですか……。ではお言葉に甘えて」 荒川「ああ、ゲドー。花火って綺麗らしいけど、危ないものでもあるみたい だから、皆には少し離れて見るように言っといてくれるか?」 ゲドー「わかりました。どれぐらい離れればいいんですか?」 荒川「そうだね、100㍍ぐらい離れてれば大丈夫じゃないかな」 ゲドー「そうですか、わかりました。それでは国内に通達してきます」 そう言って、ゲドーが政務室から退室する。 荒川「さてと、今のうちに準備、準備♪」 と荒川は自室に戻り、何故かクローゼットを探り始める。 荒川「どの服がいいかなー。あまり王様らしい服は好まれないと思うしなー」 実は、芥辺境藩国に城島月子がくる事になりそうだと、もっぱらの噂だ。 そして、藩王・荒川真介は大の月子ファンで、密かにバナナ園まで造ったらしい。 荒川「楽しみだなー♪ 早く来ないかなー♪ ああ、月子さん! あなたはまるで、月の女神。いや、 月の女神でさえあなたに頭を下げ嫉妬するでしょう! その美しさ! その慈悲深さに!!」 荒川、のりのりである。 そして、ゲドーが花火大会の告知をすると、サヨコが行動を始めた。 サヨコ(今日、今日を逃したら逢真との関係は進まない! 絶対に逢真と花火を見て、こ、こ…… 恋人になってみせる!) 気合を入れて、逢真を探し始めるサヨコ。 そして、 アンジュ「逢真さんは、来るのかなー? ……誘ってみよう、そうしよう!」 アンジュもまた行動を開始していた。 サヨコがお城の中を走る寸前の速度で歩いていると、 前から優雅な足取りで歩いてくる人がいる。 ……キキョウだ。 キキョウ「あら? サヨコ?」 サヨコ「あ、姉さん」 キキョウ「どうしたの? そんなに急いで?」 サヨコ「な、何でもないわよ、気にしないで」 サヨコはキキョウから視線を外す。 サヨコの態度を見てキキョウは少し考え、 キキョウ「……なるほど」 と、くすくす笑い始める。 サヨコ「な、何で笑ってるのよ?」 キキョウ「いえ、何でもないわよ?」 サヨコ「い、言いたいことがあれば言えばいいじゃない」 キキョウ「……言ってもいいの?」 サヨコ「……ごめんなさい、言わないで。お願いだから」 キキョウ「サヨコ、頑張りなさい。きっと想いは通じるから」 サヨコ「な、な、何を!?」 心を透かされたみたいで、サヨコは慌てる。 キキョウ「逢真さんを花火に誘うんでしょ? 今日は七夕だし、きっと通じるわよ」 事実、透かされているが。 キキョウはサヨコの想いを知っている。 だから、不器用な妹の恋を応援している。 サヨコもキキョウが応援してくれているのを知っている。 だからこそ、サヨコは逢真の鈍感ぶりに呆れても頑張れる……のかもしれない。 サヨコ「そ、それじゃ急ぐから。またね」 キキョウ「ええ、またね」 サヨコはまた走る寸前の速度で城の中を歩き始める。 そして、 キキョウ「……とは、言ってもちょっと心配ねー……。 そうだ♪」 と、キキョウはちょうど近くを通りかかった兵を呼び止め、 キキョウ「ごめんなさい、常世 知行を呼んできていただけないかしら?」 一般兵「は!」 ~逢真の自室~ 逢真「……はーーー……」 逢真は机に突っ伏していた。 常世「おーい、生きてるかー?」 逢真「何とかなー……」 ちょっとした用事で逢真の自室に来た常世が声を掛けた。 常世「とりあえず、これでも飲んで元気出せ」 逢真「おーー、サンキュー」 常世が持ってきてくれた水を飲んで、少しは回復する。 逢真「はー。生き返ったー」 常世「いや、そんなオーバーな(汗」 逢真「オーバーなんかじゃないけどな」 常世「しっかり寝てるのか?」 逢真「いや、寝ても疲れが取れなくて……」 常世「年か?」 逢真「お前の方が年上だろ」 常世「……そうだな」 常世の言葉で少し疲れが取れる気がした、逢真だった。 逢真「それで? 用事ってなんだ?」 常世「……ああ、忘れてた」 逢真「おいおい」 常世「まあ、そんな大した用事じゃないしな、ある意味」 逢真「ある意味?」 常世「ああ、花火大会の事で少しな」 逢真「そういえば、そんなイベントがあったような……。 何だ、ついに好きな女性でも出来たか?」 常世「って、何を言い出す、いきなり」 逢真「いや、今日七夕だし、花火大会というイベントあるし、 告白するにはもってこいの状況だろ?」 常世「……まあ、考えてみればそうかもしれないが……。 どっちかって言うと、お前の方が心配だぞ?俺は」 逢真「……何で?」 常世「何で?って、お前……」 常世(やっぱり、気付いてない。こいつ全く気付いてない! サヨコを筆頭にして、何でこいつがいいんだ? ……まあ、いい奴だけど) 常世は心の中で長い溜め息をつく。 常世「あのな、逢真。さっきお前が言ったように今日は七夕だ」 逢真「そうだな」 常世「それで、これもお前が言ったが、好きな相手に告白するのにちょうどいいイベントもある」 逢真「ふむ」 常世「……それで、お前の周りには……」 順序良く説明しているはずなのに、何故か疲れてきた常世。 コンコン。 常世が核心を話そうとした時に、ドアがノックされる。 逢真「常世、ちょっとまて。 何だ? 開いてるぞ」 一般兵「失礼します。こちらに常世 知行さんはいらっしゃいますか?」 常世「はい、私ですが?」 一般兵「キキョウ様がお呼びになってますのでキキョウ様の部屋まで お願いできますか?」 常世「わかりました。すぐに向かいます」 常世が扉に向かって歩き出す。 逢真「おい、話しはいいのか?」 常世「……また今度、ゆっくり出来るときに話すよ」 逢真「わかった」 常世「それじゃ、またな」 逢真「またな」 常世はキキョウの部屋に向かって歩き出す。 常世(それにしても、キキョウ様、どうしたんだろう? 何かあったか?) 常世の歩く速度が少し速くなる。 ~キキョウの部屋~ 常世(着いたけど……、とりあえず、周辺に人の気配はないな。 だとしたら、用ってなんだろう?) 扉をノックする。 キキョウ「はい、どなた?」 キキョウの声がする。 常世「常世です」 キキョウ「ああ、常世? どうぞ入って」 常世「失礼します」 キキョウの部屋に入る。 と、キキョウは常世の方を向く。 常世「キキョウ様。常世 知行、参りました」 常世は片膝をついて、頭を下げて、言葉が掛かるのを待つ。 キキョウ「…………」 だが何故か、キキョウは黙ってしまう。 常世「……キキョウ様?」 常世は不審に思い、顔を上げる。 と、キキョウは笑っている。がその笑顔は常世に恐怖を与えた。 恐かったが、用件を聞くためにもう一度常世はキキョウに問いかける。 常世「……キキョウ様? いかがなさい……」 常世が言い終わる前に、キキョウが声を上げる。 キキョウ「様付け、禁止ーーーー!!!!」 キーーーーーーーン。 あまりの大きさに、常世は鼓膜が破裂するかと思った。 キキョウ「常世! 前にも言ったけど、もう一回言いますよ! 『様付け禁止!』 今度、様付けしたら……、常世? わかってますよね?」 常世「……ここで、『わかりません』と言ったら……?」 キキョウ「あることー、ないことー、お城に噂を流します♪」 キキョウは即答で、とびっきりの笑顔で言う。 その笑顔は他の人が見れば、誰もがつられて微笑み返すような笑顔だった。 しかし、常世はその笑顔が『笑顔』に見えなかった。 何故なら、 常世(……目が、目が笑ってない!? まずい、あれは本気の目だ! しかも、反論も許されない! 反論しようとしたら、 間違いなくあることないこと{比率1:9}で流される!) 常世「……キキョウさん、用事とは……」 ぴく。 キキョウの顔が引きつる様な音が聞こえる。 常世「……キキョウ、用事とは何だ?」 キキョウ「それはですねー♪」 そう言いながら常世は立ち上がる。 常世が言い直すと、キキョウも嬉しそうに話し始める。 やっと、本題が始まる。 キキョウ「今日って、花火大会があるんですよ?」 常世「ああ、さっきゲドーさんが藩国内に通達してたね」 キキョウ「そうそう! それでね、サヨコが逢真さんを 花火大会に誘うみたいの!」 常世「……そうか、サヨコも遂に決心したか」 キキョウ「そう♪ それで、お願いがあるの」 常世「……まさか、二人を尾行しろと?」 キキョウ「半分当たりで、半分はずれかな? 二人きりになれるように、障害(邪魔者)を牽制して欲しいの」 キキョウ「一番のライバルは……アンジュちゃんかなー」 キキョウ「アンジュちゃん、嫌いじゃないのよ、どっちかって言うと 好きなのよ、アンジュちゃん可愛いし。でもこれだけはサヨコに 負けて欲しくないのよ」 常世「アンジュか……。やりずらいなー」 キキョウ「正確に言えば、お邪魔虫全員なんだけど……ね……」 常世「……それは、無理だぞ。幾らなんでも」 キキョウ「だよねー……。 だけど、こんな事頼めるの、常世しかいないの」 常世「……まあ、出来る事はやるよ」 キキョウ「ありがとう♪ それじゃ、お願いね」 常世「任された」 そう言って常世は部屋を出ようとする。 が、呼び止められる。 キキョウ「……常世」 常世「ん? どうした?」 キキョウ「……何でもない、頑張ってね」 常世「ああ」 常世が部屋を出る。 扉が閉まってからキキョウが独り言をいう。 キキョウ「……私、何で常世を呼び止めたんだろう?」 キキョウも自身の気持ちがわからないようだった。 キキョウ「……まあ、いっか。 花火大会までまだ時間あるし、お散歩しよ!」 キキョウも部屋を出る。 自身の心の中に生まれた気持ちを誤魔化すように。
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ss(長編)のまとめです。 2スレ以上使ったssをまとめています。 順はなるべく投下された順にしているつもりです。 理科「ちょっとこれ繋げて読んでみてよ」 数学「えっと、ラッキーマン、コーヒー、ライター」 理科「もうちょっと滑らかに」 数学「ラッキーマンコーヒーライター」 理科「うわ、恥ずかしい」 数学「え、何が恥ずかしいの?教えて?」 数学「(うーん。よくわかんないなぁ)」 数学「(そーだ、誰かに聞いてみよう)」 数学「えっとー、あれはぁ、現代文ちゃんだぁ」 数学「あ、現代文ちゃん?ねえちょっと聞きたいことがあるんだけど」 現代文「これから会議なんですけど」 数学「あ、すぐ終わるからぁ。えっと、理科ちゃんがぁ(略)っていったんだけど、どういう意味?」 現代文「プルプル・・・・」(震えている) 数学「え、どーしたの、現代文ちゃん、真っ赤になっちゃって」 現代文「他の人に聞いてよ!もう!私知らない!」 数学「(わかんないな。なんで現代文ちゃん怒って行っちゃったんだろう)」 数学「(あそこにみんなが集まってるから聞いてみよう)」 数学「ねぇ、みんな理科ちゃんが(略)って言ってたんだけどどういう意味なの?」 古文「うふふふ(喜んでる)」 漢文「数学カワイソス」 保健「今から手取り足取り教えてあげるわ」 倫理「理科ったら純粋な少女何を教えたんですか!もう許さんです!」 英語「まあまあこれぐらいの悪戯は良くあるんじゃないの?」 美術「動かないで」 英語「oh…でもこの姿勢とても辛いデース…」 美術「でも駄目」 英語「…あとどれくらいかかりマスか?」 美術「あと少し」 英語「わかりまシタ…」 30分後 英語「あとどれくらいかかりますカ?」 美術「あと少し」 英語「少しってどれくらいデスカ?」 美術「…二時間」 英語「おだてられて話に乗ったワタシがバカでシタ…」 美術「バカ」 英語「他人に言われるとムカつきマス…」 美術「がんば(ぐっ」 英語「完全に他人事デース…」 美術「出来ましたよ!」 英語「oh!ついに解放されマシタ!」 美術「スミマセン、ご迷惑おかけしちゃって…」 英語「hahaha、気にしないでクダサーイ!」 美術「そう言ってくださると助かります」 英語「それにしても美術は絵を描いてる時と普段では別人デスネ」 美術「はぁ…いつも夢中になるとまわりが見えなくなっちゃって」 英語「それだけheartを込めて描いた絵、きっと凄いはずデスネ」 美術「えぇ、今年で最高の出来ですよ」 英語「それは楽しみデース、見せてクダサイ」 美術「どうぞ」 英語「………」 美術「どうですか?」 英語「ワタシ…こんなに胸小さくありまセーン!(ビリビリ」 美術「アッー!」 数学「………」 英語「どうしたデスカ?数学」 数学「…何食べたらそんなに背高くなるの?」 保健「え?ナニを食べ…」 給食「落ち着けバカ野郎」 数学「は、話の輿を折られちゃったけど…」 英語「ン~…何と言われても普通にしてただけデース」 数学「食文化の違いかなぁ…」 英語「小さいこと気にしてマスカ?」 数学「あぅ…その…」 給食「数学、まだ気にしてるの?」 数学「給食ちゃんは黙ってて!」 英語「oh…喧嘩はダメデース」 給食「大体ね、英語は確かに背は高いけど乳は小さいのよ?」 英語「そっ、それは関係ありまセーン!」 給食「大事なのはバランスよ?」 数学「う、う~ん…」 英語「ちょっと納得してるー?!」 数学「給食ちゃんはスタイルいいからそんな事いえるんだよぅ!」 給食「まぁ確かにその辺の女とは格が違うし?」 英語「ワタシの胸を見て言わないでクダサイ!」 保健(給食はスタイル良し…っと) 数学「小さいって生徒にまでからかわれるんだよ?」 英語「ワタシも陰で貧乳言われてマース…」 保健「また揉んであげ…何で逃げるの~?」 数学「私だって大きくなりたいよ…いつも上から見下ろされて…」 給食「いいじゃない別に」 数学「どうして!?」 給食「私は今のままの数学が好きだよ(きゅっ」 数学「ななななな何を…!?」 給食「変わりたいなんて言わないで…今のままで魅力的だから」 数学「給食ちゃん…」 給食「ぬいぐるみみたいで可愛いわよ」 数学「あぅ~…またバカにするぅ…」 保健「百合の匂いがするから戻ってきたのにぃ」 給食(あぶねー、厄介なのにバレるとこだったわ…)
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野試合SSその2 聖槍院九鈴は、朝から海老カツだった。 普段は質素な聖槍院家の朝食だが、九鈴の試合がある日は彼女の好物である海老のカツが食卓に上るのが恒例となっていた。先日まで開催されていた「ザ・キングオブトワイライト」という魔人同士の比較的平和な格闘大会に九鈴は参加し、一回戦で敢えなく敗退はしたものの、敗者による裏トーナメントに於いて見事優勝を収めたのだった。 大会は興行的にかなりの成功であったようで、閉会後の特別企画として大会参加者である九鈴と雨竜院雨弓によるエクストラマッチが行われることになった。ゆえに、今朝は海老カツなのである。 九鈴はしゅわしゅわと音を立てる海老カツをトングで挟んで油の中から取り出し、少しのあいだ金網の上に置いて油を切ってから、さくりと包丁で半分に切り断面を見て火の通り具合を確認する。加熱によってタンパク質から遊離した、アスタキサンチンの赤が美しい。そして九鈴は、家族それぞれの皿に海老カツを並べていった。 ただし、実のところ彼女が行っているのは配膳だけであり、調理のほとんどは母親によるものである。もちろん九鈴もそれなりに料理ができないわけではないが、うっかりすると母親に任せっきりになりがちなのは反省すべき点だと思っている。まあ、今日は試合の日なのでこれで良いのだ。 「もぐもぐ。ロブスター=サンはおいしいなぁ」 いつの間にか「いただきます」も言わずに、弟の九郎が海老カツを盗み食いして平らげていた。九郎は10歳。育ち盛りの食べ盛りではあるが、これは少々行儀が悪い。 「ちょっとダメでしょ。いつも言ってるよね? 小型の海老は『シュリンプ』だって」 九鈴は少し厳しい口調で弟をたしなめた。彼女には風変りなところがあり、海老とか蟹については何故かちょっとうるさいのだった。なんでだろうね。 「お、海老カツかー。今日は雨弓君と試合する日だったなー」 朝寝坊な九鈴の父親が、のっそりと現れた。大柄で、武骨で、人類を大雑把に分類するならば雨竜院雨弓と同じジャンルに属する人間である。 「九鈴。試合もいいが、雨弓君とお付き合いする気はないのか?」 「お父さん、ソレはやめなさい。九鈴も困ってるでしょ」 同類だからだろうか、九鈴の父は雨弓のことをやけに気に入っている。そして、いつもの無遠慮な提案をして、母にぴしゃりとたしなめられた。何度も繰り返されてきたおなじみのやり取りだ。九鈴は本当に困った表情で、口の中の海老カツを咀嚼して、飲み込む。母さんの海老カツはとてもおいしい。そして、九鈴はいつもと同じくこう答えるのだ。 「それはムリなの。だって雨弓さんは雨雫のものだから……」 ††††† また、雨雫の夢をみた。雨弓の従妹。この世を去った恋人。雨竜院雨雫の夢をみた。あの日から8年の時が経ったというのに、あの時の記憶は未だ色褪せず生々しい。 雨弓がみる雨雫の夢は、大きくわけて二種類。ひとつは雨雫があの世から帰ってきて結ばれる、幸せで未練がましい夢。もうひとつは、雨雫が死んだあの日の、狂おしく身を裂くようなリフレイン。 昨夜の夢は、悪い方の夢だった。 雨弓は、最愛の人を自らの武傘で殺めた。仕方がなかった。殺さなければ、自分が殺されていた。いや、仕方ないなどということはない。もっと自分に力があれば、あるいは殺さずに済んだかもしれない。力が足りなかったのならば、自分が殺されれば良かっただけかもしれない。 雨雫は運命に呪われていた。可憐なその身の裡に、邪悪な双子の兄が取り憑いていた。邪悪な兄に、名はない。そいつは、雨雫の左肩に宿った人面疽だった。 雨雫の精神が弱った時、邪悪な兄が彼女の肉体を乗っ取り悪行を働く。あの日、奴は、雨竜院家の門下生である女性を陵辱目的で襲い、殺した。 殺人犯を追った雨弓は、邪悪な兄が操る雨雫と戦い、そして、殺害したのだ。兄に支配された雨雫の肉体は男性化し、雨弓を上回る膂力を発揮していた。 もう何百回も夢の中で繰り返した通りに、雨雫の左肩に憑いた悪魔を抉り殺した。雨雫の心臓もろともに。そして、死にゆく雨雫を抱き締め、口付けをした。体温が失われてゆく雨雫の体を、降りしきる雨の中で、抱き締め続けた。 これから雨竜院雨弓が戦う聖槍院九鈴は、雨雫の親友だった女性だ。雨弓と雨雫の仲を取り持ってくれた恩人でもある。だが、そんなことは今は関係ない。 九鈴の修めた武術「トング道」と魔人能力「タフグリップ」が、雨弓の胸を踊らせている。彼女とならば、「あの映画」やふざけたアナウンス改変のような不純物の混じらない、本当の戦いが楽しめるはずだ。 苦い夢を頭の中から押しやり、雨弓はこれから繰り広げられるであろう死闘に思いを馳せた。戦うこと。強くなること。雨弓にとって、それは神聖なことだった。――雨雫を救えなかった弱い自分を、消し去ろうとしているのかもしれない。 ††††† 世界は改変されて平和になった。しかし、すべての不幸が消えてなくなったわけではないのだ。例えばこのビル。日本で最も高いビル、高さ400mの「あしやドミチル」もその一例だ。あまりに高すぎる維持費による経営破綻劇の裏側で多くの者が首を吊り、いずれこのビルも解体される予定となっている。 試合会場である廃ビルのふもとに、雨弓と九鈴が並んで立ち説明を受けている。簡素な野外ステージが設営され、大勢の魔人格闘ファンが、試合開始を待ちわびている。 「試合エリアは解体予定の廃ビル敷地内。電気は一応流れていますが、いつ止まるかわからないのでエレベーター等の使用には御注意ください」 大会本編で司会を務めた佐倉光素が、この試合では審判も兼ねている。あくまでも番外編なので、大規模なマネーは動いていないのだ。ただし、天狂院癒死が医療スタッフとして控えているため、大抵の死に方なら復活できるはずである。存分に殺し合える舞台――それは、雨弓にとっても九鈴にとっても望ましいことだった。 「念のため。空中に居る場合はビルから50m離れるとアウトです。ビルはいくら壊してもOKなので、お二人とも魔人能力の限りを尽くして、全力で死闘を繰り広げてください!」 光素の語調は「魔人能力の限り」の箇所で特に強くなった。光素を突き動かす原動力は善意ではなく好奇心である。魔人能力を観察するためならば、人心を弄ぶ外道なマッチングも辞さない。例えば雨竜院雨雫の――いや、それは別人の所業であったか。 「皆様おまたせしました。それでは試合開始です!」 光素は手に持った鉄板を、退場宣告するサッカー審判のように掲げた。すると、雨弓と九鈴の姿が消え失せる。光素の瞬間移動能力により、廃ビル内に転送されたのだ。なお、光素が瞬間移動能力を使う際に鉄板を掲げる必要は特にない。たぶん、審判っぽいアクションをしたかっただけなのだろうと思われる。 ††††† 雨弓が転送された87階はホテルの客室フロアの廊下だった。そもそも、商業フロアは30階までなので、ランダム転送では客室フロアに出る可能性が最も高い。 手近な部屋の扉を開けて中に入ると、雨弓はまずバスルームの水道を確認した。蛇口を捻る。勢い良く水が流れ出し、シンクに積もった埃を洗い流した。 雨弓の幻覚能力「睫毛の虹」を使用するのに必要な空気中の水分は、これで確保できた。どれほどの給水能力が残されているかは不明だが、少なくとも背負ってきたポリタンクよりは多いだろう。 雨弓は窓辺に近付き、山手に広がる瀟洒な住宅街を見下ろして目を細める。こうやって高い所から眺めれば、街の裏側で繰り広げられる犯罪行為は影も見えず、平和そのものの光景だ。 「さて、愛しの姫君をどこでお待ちしたらロマンチックな雰囲気になるかねぇ」 そう言って雨弓はニヤリと笑った。言葉とは裏腹に、勇者を待ち構える魔王のような、凶悪な笑みだった。九鈴との命を懸けた戦いが、心底楽しみだった。雨弓は心の昂ぶりを抑えきれず、武傘を乱暴に振り下ろす。ダブルサイズのベッドが、一撃で真っ二つにへし折れた。 ††††† 九鈴は、地下二階の駐車スペースに転送された。何も見えない暗闇の中、トングで床を叩き、ソナーのように周囲の状況を把握する。 集中力が高まり、感覚が鋭敏になっている。予期せぬ闖入者を見て慌てて逃げ出す小さなダンゴムシたちの可愛らしい様子まで、はっきりと判る。大丈夫だ。これなら存分に殺し合える。 周囲の構造から、自分は地下にいると九鈴は判断した。ならば上に登ってゆくだけだ。シンプルで良かった。 おそらく、雨弓は高層階で待っているだろうと九鈴は予想している。天を奉ずる雨使いの性だろうか、あるいは単に馬鹿だからか、雨弓は高い所が好きだった。授業をサボった雨弓を探して、校舎の屋上へと雨雫が向かう姿を何度みただろうか。 エレベーターの使用は危険と判断し、九鈴は非常用階段を登っていった。多数のトングが詰まったキャリーバックを手に、百階近いビルを階段で登るのは魔人の体力でも大変なことだ。だが、九鈴は楽しくて仕方がなかった。もうすぐ雨弓と殺し合えることを思えば、階段など苦にもならなかった。 ††††† 地上94階、展望レストラン跡。九鈴が到着した時には、既にフロア全体が湿気に包まれていた。散水によって雨弓が能力を発動するための条件が満たされているのだ。頬に当たるひんやりとした空気に、雨弓の本気を感じて九鈴は嬉しかった。 「待ってたぜ。疲れてるなら少し休憩してもいいぞ」 雨弓は逸る気持ちを抑えて言った。策の限りを尽くして殺し合うのが望みだが、それには九鈴の状態がベストでなければ意味がない。 「ごしんぱいなく。――おしてまいります。雨弓先輩……!」 九鈴は二本のトングを両手に構え、トングの先でガリガリ床を掻きながら雨弓との距離を縮めてゆく。九鈴は笑っていた。焦点の定まらない虚ろな瞳。既に戦いの狂気にその身を浸していた。 雨弓は視界を赤外線視に切り替えて九鈴の体表温をスキャンした。光の屈折を操作する「睫毛の虹」の応用技術だ。エロ目的でも使えるため誰にも教えてない秘密の技である。九鈴の足にかなり疲労が蓄積されているのが見て取れたが、戦闘に大きな支障はなさそうだ。 「いくぜェ、九鈴! 悪いが、手加減なしだ!」 臨戦態勢に入った雨弓は、独特の歩法「蛟」によって音もなく滑るように間合いを詰め、長さ2mの番傘、武傘「九頭竜」による突きを放つ。雨竜一傘流の基本技「雨月」。雨弓の巨躯と巨大武傘による長大な間合いが、九鈴の遥か遠くから襲いかかる。 しかし、九鈴は無反応だった。その目はあらぬ方向を向き、歩調に変化はなく、ガリガリとトングを鳴らしながら歩き続けていた。武傘が九鈴の身体を突き抜ける。――血は流れない。「睫毛の虹」による幻影の攻撃だからだ。 次の瞬間、九鈴は左に身をかわし、虚空に向けてトングを伸ばす。ガチン。何もない空間で金属音が鳴り、トングが弾かれる。幻術が解かれ、見えない「雨月」を放った雨弓の姿が現れた。姿を消して時間差攻撃を仕掛けていたのだ。九鈴は幻影に惑わされぬ完璧な対応で、武傘をトングで挟み取ろうとしたが、雨弓は傘を捻って弾き、掴ませなかった。 「シィイイヤアアアァッ!」 叫び声と共に武傘による連続突きを放つ雨弓。雨竜院一傘流の「篠突く雨」に幻術によるフェイントを交えた猛攻。九鈴は冷静に二本のトングで巧みに捌く。しかし、タフグリップ把持には至らない。トングに挟まれる寸前で武傘は素早く逃げてゆく。 「たあっ!」 連撃が僅かに緩んだ隙に、地を這うようなトングが雨弓の左脚を鋭く狙う。体重移動のタイミングを完全に捉えられ、脚を引いて逃げることは不可能であることを悟った雨弓は右下段蹴りでトングを逸らし、そのまま踏み込んで九頭竜を振り下ろす。九鈴は舞うようなステップで打撃を回避する。 お互いに技を知り尽くした仲のせめぎ合い。傍目には達人同士の血も凍るような技の応酬だが、雨弓も九鈴もこの程度の戦いでは満足できない。こんなのは道場稽古の延長線上に過ぎないのだ。二人が望むのは――命を賭した殺し合い。 武傘とトングが激しく交錯する中、雨弓は違和感を感じていた。幻術への九鈴の対応が完璧すぎる。完全に見切られているどころではなかった。幻術を使っていることに、気付いてすらいないような動きだった。雨弓は一旦距離を取り、疑問を口にする。 「九鈴……お前の目、どうなってるんだ?」 「めはやきました。雨竜院の雨は、もはや私には届きません――私の瞳には、太陽が宿っているのです」 双眼鏡で太陽を直視することで、九鈴はあらかじめ視覚を捨てていた。絶対に真似してはいけない完全な幻術対策である。 懐から投擲トングを取り出し、三本連続で投げつける。飛来するトングの先に挟まれた粘土のような物質を見て雨弓は戦慄した。C-4プラスチック爆弾。信管を挟み込んで固定した「タフグリップ」を遠隔解除することによって、任意タイミングで起爆することが可能である。 雨弓は九頭竜を開いて防御する。ガウン。ガウン。二発立て続けに傘面で爆発が起こり、特殊合金製の骨組みが軋む。傘を回転させる防御技「雨流」によって衝撃を受け流さなければ、ダイヤモンド粒子で強化した特殊繊維の布ですら無傷では済まなかったろう。 傘を閉じると、雨弓に背を向けて走る九鈴の姿があった。キャリーバックを手に持ち、階段室へと向かっている。なぜ逃げるのか。足元に転がるもう一本のトングを赤外線視した雨弓は危機を察知する。トングの先端温度が異常に低下していた。急激な気体の膨張による温度低下だ。タフグリップ捕集された何らかの気体が放出されているのだ。 雨弓は全力で跳んだ。武傘の一突きにより、天井を突き破ってビル屋上に退避する。雨弓を追撃するように、穴から酸っぱいアーモンド臭が立ち昇ってきた。この匂いは――青酸ガスだ。 「よいはんだんね。うれしいわ。簡単に死なれちゃ困るもの」 心底うれしそうに、軽い足取りで九鈴も屋上にやってきた。雨弓も、本気すぎる程に本気な九鈴の殺意をうれしく思った。 「ハハハハハハ! そうだ! この感じだ! 戦、俺にはそれが必要だ! ……ったく、真剣勝負ってのは良いモノだぜ、ファントムやポータル・ジツの邪魔が入らなきゃ、尚更だ……!」 再び激しく武傘とトングがぶつかり合う。幻術が意味を為さない今、完全に武芸の技を競う勝負である。いや、「タフグリップ」がある分、九鈴に利があるだろうか。一度でもトングが相手を捉えれば、死ぬまで離さず喰らい付くのだから。左右二本の死の咢が、雨弓を喰らわんと踊っている。 「せいやあっ!」 床面に突き立てたトングを軸にした、九鈴の高々度右上段回し蹴りが放たれる。頭部を狙った蹴りを、雨弓は左手でブロックする。その瞬間。九鈴は脛に仕込んでいたトング爆弾を起動した。ガウン。爆音が響き、九鈴の右脚と雨弓の左腕に大きな損傷。だが、そのダメージは重要ではない。重要なのは、爆発によって生じた隙に、九鈴のトングが武傘を捕獲していたことだ。 「しんでください!」 トング道の合気によって雨弓の巨体が宙を舞い、脳天から逆落としでコンクリート床面に叩きつけられる。床面に丸く血の跡が描かれる。激突の衝撃をトングの合気で投げ技のエネルギーに変換。床面でスーパーボールの如く跳ね返った雨弓の巨体が再び宙を舞う。だが、雨弓は冷静にタイミングを見計らっていた。トングに捉えられた武傘を手離し、背後に素早く回り込んで丸太のような腕で九鈴の気道を締め上げる。 「もらったぜェ九鈴。これで終りかなァ……!!」 「うっ、うぐううっ!」 苦しげに呻きながら、九鈴は逆手に持ったトングで雨弓の脇腹を何度も突き刺し抵抗する。脇腹から血が滲むが、分厚い筋肉に阻まれてトングは貫通しない。九鈴の喉を締め付ける腕の力が増してゆく。ガウン。九鈴の左肩に仕込まれたトング爆弾が炸裂した。九鈴の肩が抉れる。間近で起きた爆発に顔面を激しく焼かれ、雨弓の腕の力が緩んだ。腕の隙間にトングを滑り込ませて梃子の原理を利用して引き剥がし、九鈴は絞め技から脱出した。 5mの距離を置き、対峙する二人。左手をだらりと垂らし、右腕一本でトングを構える九鈴。焼けただれた顔面に凶悪な笑みを浮かべ、素早く回収した武傘を構える雨弓。両者とも重傷を負っているが、その全身に殺意が漲っている。しかし、雨弓の心には隙が生じていた。左肩に大きな傷を負った九鈴の姿に、自ら殺めた恋人・雨雫の最後の姿がだぶって見えたからだ。九鈴の痛々しい姿に目を奪われていた雨弓は、自分の背後に九鈴のキャリーバックがあることに気付くのが遅れた。 ガガガガガガガガウゥゥーーーーン! 爆音が鳴り響いた。空気の振動は地上の特設ステージにまで伝わり、上空を一斉に見上げた魔人格闘ファンたちの歓声が上がった。キャリーバック内に満載されたトング爆弾が一斉に起動され、雨弓の至近距離で爆発したのだ。 ††††† 九鈴の身体が、宙を舞っていた。九鈴の腹部に突き刺さる、武傘「九頭竜」先端の突剣によって吹き飛ばされたのだ。鳴り響く爆発音によってトング・エコロケーションが機能しなくなった瞬間に合わせ、雨弓は九頭竜の突剣射出機構を作動し九鈴を狙撃した。視覚を失っている九鈴に、避けるすべはなかった。 ビル屋上の転落防止柵を飛び越え、九鈴は落ちてゆく。(わたしのまけだ……)九鈴は満足していた。雨弓の耐久力ならば、あの爆発でも生き延びられるだろう。九鈴が地上に叩きつけられて死に、それで決着だ。理想的ではないにせよ、九鈴にとっては悪くない結末だった。 ――逞しい左手が、九鈴の足を掴んだ。落下速度が弱まる。至近距離の大爆発で瀕死の重傷を負いながらも、雨弓は九鈴を追って飛び降り、捕まえたのだ。右手には開かれた大きな傘。巨大な傘によって落下速度が削がれ、ゆっくりと二人は落ちてゆく。雨竜一傘流「落下傘」である。雨弓は爽やかな笑顔で言った。 「俺の勝ちだな。楽しかったぜ」 九鈴の顔から血の気が引いた。 「それじゃダメなの!」 トングが鋭く動き、雨弓の右手を捉えて指をへし折った。不可解な九鈴の行動に雨弓は対応できず、その手から傘が離れる。再び自由落下が始まった。 「バカ九鈴!! 何かんがえてやがる!!」 雨弓が叫んだ。九鈴の行動の意味がまったく解らない。 地上まであと8秒。 「うらやましいの! 雨雫のことが!」 地上まであと6秒。 「ころしあいたい! 最後まで! 私も雨弓さんの永遠になりたいの!」 雨弓と九鈴は、お互いに殺し合いを望んでいた。だが、殺し合いに求めるものはまったく違っていた。雨弓は単に、殺し合いの過程を楽しみたかった。九鈴は、殺し合いの結果が欲しかった。殺し合いの結果が、雨弓の心に永遠に刻まれることを望んだ。それだけが、死によって雨弓の中で永遠の存在となった雨雫に追いつける唯一の方法だと信じていた。だから、戦いの結末はいずれかの死である必要があった。 地上まであと3秒。 「すまなかった……」 九鈴が何を考えているのか、雨弓には理解しきれなかった。だが、自分が九鈴を苦しめていたことだけは解った。雨弓は九鈴の体を引き寄せ、護るように強く抱き締めた。この落下速度ではいずれにせよ二人とも死ぬだろう。それでも、落ちる体勢は大事だと考えた。 地上まであと1秒。 ……。 地面に激突する寸前。地上30cm。不意に落下速度がゼロになった。一瞬の停止の後、ごく短距離の落下が再開し、二人はほとんどダメージなくどさりと地に落ちた。 何が起きたのか。ざわつく観客たち。やがて、観客たちの視線は一人の少年に集中していった。 少年は最初、なぜ自分が注目を集めているのか判らなかったが、すぐに状況判断して能力を使い、特殊銃を生成した。能力名「ガンフォール・ガンライズ」。物体の鉛直移動を自在に操るスタームルガーmk2を手に、少年は華麗なガンスピンを披露する。隣席の可憐な少女の視線を意識しながら、少年は言った。 「さあ、光素さん。決着はついたぜ。試合終了の判定を頼むよ」 促されて光素は(何か変だな)と思いつつも鉄板を高く掲げた。 「試合終了です! 二人ほぼ同時に落下しましたので、雨竜院選手と聖槍院選手によるエクストラマッチは引き分けとします!」 死闘を称え、湧き上がる歓声と拍手の中、死を覚悟していた二人はしばらく呆然と抱き合っていたが、やがて我に返ってどちらともなく飛び離れた。蓄積されたダメージは大きく、少し離れるとまた二人とも地面に倒れて横たわる。 「なあ、九鈴」 雨弓が優しい声で話しかけた。 「いきなり永遠を誓うってのは、やっぱり無理な話だと思うんだ。――まずは恋人から、順序よくいかないか?」 そう言って、九鈴に向けて手を差し出した。 九鈴はしばらく逡巡してから、無言でおずおずと手を伸ばす。そして九鈴の手は、雨弓の大きく、荒々しく、暖かい手を強く握り締めた。 ††††† 秋は一夜にやってくる。 二百十日に風が吹き、 二百二十日に雨が降り、 あけの夜あけにあがったら、 その夜にこっそりやって来る。 舟で港へあがるのか、 翅でお空を翔けるのか、 地からむくむく湧き出すか、 それは誰にもわからない、 けれども今朝はもう来てる。 どこにいるのか、わからない、 けれど、どこかに、もう来てる。 ――金子みすゞ『秋は一夜に』 (野試合「雨竜院雨弓 vs 聖槍院九鈴」おわり。「落下停止」につづく) このページのトップに戻る|トップページに戻る
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エキシビジョンSSその1 真っ白なシーツのパイプベッド。クリーム色の天井。 腕に繋がれた点滴とバイタルサイン監視装置。 心拍に同期した電子音が規則的に鳴っている。 雪山で敗れた後に見たものと、まったく同じ光景。 『音玉』以降の記憶がない聖槍院九鈴(せいそういん くりん)は、集中治療室で自身の勝利を知った。 「うっふふー。ゆっくり休んで良くなってくださいね」 九鈴の治療を担当した、天狂院癒死(てんきょういん いやし)が優しく声を掛けた。 ……彼女もまた、チューブに繋がれてベッドに横たわっている。 むしろ九鈴よりも重篤な雰囲気だ。 大会医療スタッフである、癒死の治療能力《開腹術》は凄惨な技だ。 彼女の体内には治癒の力が宿っているが、その力を発揮する方法がとてもグロい。 自身の腹部を切り開き、取り出した臓物を負傷者に押し当てて治療するのだ。 開腹した激痛で癒死本人も絶叫しまくるし、それはもう地獄のような光景である。 だが、死者すら回復させるその治癒力はすごいし、とても優しい慈愛の人なのだ。 でもやっぱり治療方法が恐いので、あまり周囲に好かれてはいない。かわいそう。 決勝戦を目前にして大会の枠組みが崩壊した際に、ワン・ターレンは姿を消した。 転校生である彼は、活動に制約があったのだろうと思われる。 彼のいない今、瀕死の九鈴と遠藤終赤(えんどう しゅうか)を回復させられるのは癒死だけであった。 結果として、彼女自身も重傷となり三人仲良く集中治療室で枕を並べることになった。 終赤の意識はまだ失われたままだが、いずれ回復することだろう。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「やあ九鈴さん。ひっさしぶりー! 具合はどうかな?」 馴れ馴れしい態度で病室を訪れたのは、赤羽(あかばね)ハルだった。 お互い試合の映像は見ていたが、直接顔を合わせるのは雪山以来だ。 「まあまあですね。優勝、おめでとうございます」 意外な見舞客に驚きながらも、九鈴は穏やかな笑顔でハルの優勝を称えた。 推理光線で一度は斬り離された右手を、握って、開く。 本来の調子が戻るまでには、まだしばらく時間が必要だろう。 「ハハハッ、なんか憑き物が取れたって感じだな。あんたも裏の優勝、おめでとな」 そう言うハルも、何か重荷から解放されたかのような様子だった。 何から解放されたのか、それはハル本人も理解してはいない。 既にハルの意識から、白詰智広(しろつめ ちひろ)という女性の存在は消えているのだ 「で、九鈴さん。逮捕されるってのは本当か? 掃除は……もういいのかよ?」 「ほんとうですよ。世界の掃除は、七葉グループがやってくれます」 裏トーナメント優勝の副賞として、九鈴が望んだ物は、関東を覆う瓦礫の撤去だ。 自分自身ができる掃除より、グループの為す掃除の方がより大きいと九鈴は判断した。 だから、遠藤終赤との戦いに備えて敢えて自首したのだった。 「ぜんぶ自分で掃除しようとするのをやめたのは良いことだな……」 ハルは少し躊躇いがちに、来訪した理由について切り出した。 「だが、七葉の奴らは賞金と副賞を踏み倒す気だぜ?」 「じょうだんでしょう? そんな不実な真似が許されるわけがありません」 「ところが冗談じゃないんだな。なぁ……天狂院癒死さん?」 「え、私? なんで私? 知りませんよそんなこと」 急に話を振られて、隣のベッドで半分寝ながら聞き耳を立てていた癒死が慌てる。 オロオロする様子が可愛らしい。治癒術がグロいのが本当に残念だ。 「七葉は既に大会から手を引きかけている。ここでの治療は癒死さんの自腹なんだろ?」 この場合の『自腹』とは、能力《開腹術》のことではなく、普通の意味の自腹である。 「はい……そうです……。一度引き受けた仕事だし、怪我人をほっとけないし……」 癒死は決まり悪そうに壁の方を向いて、小声で答えた。 「そんなわけで困ってるんだ。賞金もらえないと俺、死んじまうんだぜ」 「わたしもこまる……。そうじしてくれなきゃ……。そうじを。そうじをそうじを……」 九鈴の目つきがおかしくなり、ブツブツ独り言を始めた。 なんか聖書めいた謎のチャントも混じり出す。危険な状態だ! 「だからさ、よかったら来週、一緒に神社へ行かないか?」 デートに誘うような口調で、ハルは九鈴に提案した。死のデート・・・・ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 参加選手契約書 第八十二条 乙(せんしゅ)が本契約または甲(しゅさいしゃ)の運営に疑義のある場合、 甲の開催する大会運営会議の場にて乙は疑義申し立てをすることができる。 よくよく調べてみると、これがふざけた条項だった。 大会運営会議には、七葉グループの七財閥頭首が一堂に会する。 その会議は、グループと縁の深い夏菅大社(かすがたいしゃ)の祭殿で開かれる。 夏菅大社は雷公・菅原道真を祭神とし、近畿辺境の小さな山、三傘山(みかさやま)の山頂にある。 また、三傘山を囲むように、七つの下宮が配置されている。 夏菅大社は厳重な結界に守られていて、関係者以外は立ち入ることができない。 結界を解除するためには、下宮の本尊である七つの宝珠が必要になる。 会議開催中その宝珠は、七葉の各財閥が擁する最強の魔人が守護しているのだ。 会議の場に参加するためには、七つの宮を巡って七人の魔人を倒す必要がある。 つまり、疑義申し立ては事実上不可能。 ――ハルと九鈴は、それをやろうとしている。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 一ノ宮に辿り着いたハルと九鈴を、奇怪な男が出迎えた。 背中に大きな穴のあいた経帷子(きょうかたびら)を纏い、身長2mを越える痩身の巨人。 顔面と両手両足には、有害毒電磁波から身を護るためのアルミホイルを巻き付けている。 「我が名は……“破壊光線”の灯台寺鹿苑(とうだいじ ろくおん)……」 ワシャワシャとホイル同士が擦れ合う音と共に、第一の守護者が自己紹介した。 「滅びの定めに抗う愚か者よ……裁きの光を受けるがよい……」 能力名《レーザーストーム・クライシス》! ハルと九鈴の全身に照準マーカーが多数出現! 灯台寺の背中から光が放たれる! 放たれた光は美しい曲線を描きマーカーに向かってゆく! ハルは横に飛んで避ける! 九鈴は壁を蹴って上空に避ける! だがレーザー光線はマーカーを自動追尾し――全弾命中! ハルと九鈴は体勢を崩して胴体着陸! 「ハッ! イカレたカルト野郎が!」 日本銀行拳! ハルの指が弾いた硬貨たちが灯台寺を狙って飛ぶ! 「そうじをします……」 九鈴はダウン姿勢からの地を這うようなダッシュで間合いを詰める! 再び大量の照準マーカーが出現! 硬貨の弾丸とハルの身体と、トングを持つ手と九鈴の身体にレーザーが命中! 吹き飛ばされる硬貨! 手の痛みでトングを危うく取り落としかける! ハルと九鈴にに大ダメージ! 灯台寺は依然として無傷! 「一対二だろうと関係ない……我は神の光と共にあるのだ……」 「なぁ九鈴さん。今月、金欠でさぁ……良さげなトングを一本貰えないかな?」 「しかたないなぁ。金欠はいつものことなのでしょう?」 ハルの意図を察した九鈴は、懐から小振りなトングを取り出してハルに向けてトスする。 だが、空中のトングを照準マーカーが捉えレーザーが飛ぶ! 「遅ぇんだよ!」 レーザー着弾より一瞬早く、ハルの掌がトングを弾きながら《ミダス最後配当》で換金! 聖槍院家準家宝、小トング『オサキ』60万円! 60万枚の一円玉弾丸が灯台寺を襲う! 激しいレーザー連射で応戦するが到底防ぎ切れる数ではない! 大量の一円玉を全身に食らって吹き飛ぶ灯台寺を、急接近した九鈴のトングが捉える! 投げ飛ばし床に叩きつけ、うつ伏せに《タフグリップ》でトング固定! 「流石の神サマも、1対60万じゃ勝てなかったみたいだな?」 ハルが灯台寺の後頭部を踏みつけ、その顔面を床に押し付けながら嘲る。 対象を視認しなければ《レーザーストーム・クライシス》は発動できないのだ。 「どちらがおすき? 大人しく宝珠を渡して気絶させられたい?」 九鈴がトングを鳴らしながら質問する。 「それとも、殺されてから宝珠を奪われたい?」 一ノ宮 “破壊光線”の灯台寺鹿苑:トング裸絞めにより意識不明 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 二ノ宮の守護者、“剣闘士(グラディエーター)”の守羅紗(すらさ)リオ。 朱色の巨大剣を持ち、黒いゴチック様式のドレスに身を包んだ女性である。 ドレスの各所にあしらわれた赤いアクセントが禍々しい。 だが、それ以上に禍々しいのが左手に持った古く赤い本――殺戮文書『ラティス卿』。 「一人で来るとはよー、アタシを舐めてんの?」 リオは整った顔を歪ませ、ガラ悪く凄んだ。 「いやいや、『古本屋』を甘く見たことなんか一度もないし、二度と戦いたくもない」 ハルは正直な心の内を吐露した。本当に、古本屋とはもう関わりたくない。 「生憎時間がなくてね。九鈴さんと仲良く宮巡りしてる暇はなかったんだ」 懐から紙幣を取り出し、両手に構える。日本銀行拳によって紙幣に鋼の如き鋭さが宿る。 「どーでもいーけどな。殺すし」 リオは赤い魔導書のページを繰り、スペルを編集する。 ラティス卿の編集コンセプトは『携帯する珪素生命体』。 フィーン。フィーン。フィーン。フィーン。 奇妙な甲高い音が響き、赤く輝く怪物が四体出現した。 そいつらの手には、リオと同じ朱色の巨大剣が握られていた。 赤い光の怪物が一斉に襲いかかる! 振り下ろされる四本の巨大剣! ハルは身をかわしながら巨大剣の側面に手を当て換金を試みるが換金不能! 怪物どもの巨大剣は通常物質にあらず! 紙幣による斬撃で怪物の一体を狙う! 手応えなく斬撃がすり抜ける! 怪物どもは実体にあらず! 「ハハハハッ、無敵の召喚キャラとはまいったな!」 怪物どもの足元の床を《ミダス最後配当》で換金! 崩れた床に怪物どもが落ち……落ちない! 存在しない床に足をふんばる怪物たちによって、巨大剣が振り回される! 紙幣の刃で抗戦するが、巨大剣四本と紙幣二枚では手数と斬撃の重さが違う! 避け損ねた巨大剣が、ハルを打ちのめす! 骨の砕ける感覚! これは刃物よりも鈍器に近い! 「クッ……だから古本屋どもとは関わりたくないんだよ!」 よろめきながらリオ本体へ硬貨の指弾を飛ばす! 実体のない赤い怪物を突きぬけて三枚の硬貨が飛ぶ! リオは巨大剣の幅広い刃で、つまらなそうに硬貨を受け止めた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 襲い来る無数の刃を、トングで弾く! 弾く! 弾く弾く! 二ノ宮を守護する“放置プレイ”の張(チャン)・カルロスは結跏趺坐したまま動かない。 自動追尾の刃が、カルロスの周囲に次々と生成されて九鈴を襲う! 刃の雨を踊るように掻い潜り接近! 二本のトングを同時に突き出す! 宙に浮かんだ刃が密集して刃の壁を形成! トングの突きを跳ね返す! 刃の壁は迅速に解散してすぐさま自動追尾攻撃! 九鈴は後方宙返りで離れながら袖口から取り出した小型トングを投擲! 再び刃の壁が生成されて投擲トングをガード! 九鈴の着地点目掛けて刃が殺到する! トングで刃を弾く弾く弾く! 「そろそろ諦めて、大人しく四肢切断(カランバ)させて欲しいねぇ」 カルロスは褐色の肌の青年だ。 彫りの深い顔の黒い瞳に、下劣な喜びへの期待がありありと浮かんでいる。 彼は女性を解体するのが大好きなのだ。 カルロスは降り注ぐ刃を弾き続ける九鈴の舞をうっとりと眺めていた。 美しい。なんて優雅なダンスだろう。 そして数分後には、その姿はバラバラの肉塊に変わるのだ。 世界はなんと無慈悲で残酷なのだろうか。 カルロスは結跏趺坐したまま動かない。 悲鳴を上げながら引き裂かれる九鈴の姿を、ただ想像している。 戦闘は、彼の生み出す刃たちが自動的に終わらせてくれる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 地に倒れるハルに、四本の巨大剣が振り下ろされる。 ついに命運尽きたかと思われたその時! ハルと赤い怪物たちの間に、突然、影の壁が出現し巨大剣を防いだ。 「赤羽の旦那ァ、ずいぶん苦戦してるじゃないか。イイ気味だぜ」 『馬鹿者。仮にも君は私の従者なのだぞ。下品な口は慎みたまえ』 古本屋・相川(あいかわ)ユキオ! その手には殺戮文書『ノートン卿』! 空飛ぶ刃が九鈴の右側に集中する! 右手は癒合したばかりで動きが鈍く、防御をすり抜けた刃が九鈴に突き刺さる! 態勢を崩した九鈴に刃が殺到する! その時! 黒いスーツの男が、素早いナイフ捌きで刃を叩き落とした! 「あんたにここで死なれちゃ困るんだよ。俺が死刑求刑できなくなるからな!」 魔人検事・内亜柄陰法(ないあがら かげろう)! 能力発動。《ロジカル・エッジ》! 『涙モノのツンデレ発言』から催涙弾を生成! 四ノ宮。“初見殺し”の疾風雷禍(はやて らいか)は、殺気を感じて身をかがめた。 一瞬前まで首のあった位置を、絞殺ワイヤーが通過する! 疾風は振り向きざまに日本刀を抜き居合い斬り! 飛び離れる黒い影! トリニティの無量小路奏(むりょうこうじ かなで)だ! 奏は空中で射手矢岩名(いてや いわな)に姿を変える! 岩名は銃器生成能力《ニューヨークリローデッド》で巨大な放水銃を生成! そして、水色の髪の栗花落三傘(つゆり みかさ)に姿を変える! 「雨弓(あゆみ)先輩からの頼みなんだ! 僕たちは必ず勝つ!」 「フッ……雑魚が迷い込んできおったか!」 疾風は刀を鞘に戻し、三傘に向かって走る! 三傘、放水開始! 操水能力《レイニーブルー》で強化された超破壊力の奔流! 「セニオ様の奇跡は、時空を超えて私の祖国まで甦らせてくださいました」 「だからネ! セニオっちの戦いに泥を塗る奴は、アメちゃん容赦しないヨーッ!」 五ノ宮には姫将軍ハレル&参謀喋刀(さんぼうちょうとう)アメちゃん+98! 対するは弁髪の老人、“デアデビル”の飛白狼(フェイ・パイラン)。 白狼は無言で拳を構える。形意拳・狼の構え! “先制攻撃 First strike”+“火炎草” ハレルが遠間から参謀喋刀アメちゃんを振るう! 剣身から火炎弾が放たれる! 丸い超肥満体型に、赤緑縞模様の道化師衣装。 手には無数の風船を持ち、顔にはクラウンメイク。 六ノ宮の守護者は、場違いに陽気な姿をした“いつもニコニコ”の追原覇王(おうはら はおう)。 その前に、場違いに幼い少女が現れた。 「指揮装甲車(エルシーブイ)も出ないし、TA-35(ロボット)も出てこない。どうやら私はもう『世界の敵』じゃない」 少女は独りごちた。自分が何者であるのか見失い、戸惑っていた。 「だけど、九鈴さんの邪魔をするんだったら――高島平四葉(たかしまだいら よつば)は、おまえの敵だよ」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 境内から少し離れた路上に、不審なパネルバンが一台、停まっている。 一見、普通の車両だが、スモークガラスに隠れた後部座席から怪しい光が漏れる。 違法ギリギリの改造が施された『四ツ目興信所』の車両だ。 後部座席には、各種通信機器や武装が満載されている。 「よし、見えた……けど、アレってなんですかね。人間の形じゃないですよ?」 運転席の翅津里淀輝(はねつり でんき)が、七ノ宮を見ながら言った。 魔人能力《目ッケ!(アイスパイ!アイ)》の遠隔視で、異形の敵を捕捉したのだ。 「どれどれ……ゲッ、脳味噌が水槽の中に浮かんでやがる。なんなんだコレ……」 淀輝の誘導に従い、対象を目視した雨竜院雨弓(うりゅういん あゆみ)も絶句した。 光の屈折を操作する《睫毛の虹》によって対象の直視経路が開かれている。 「魔人だね! 能力名《R-180(アール・ワンエイティ)》。絶対防御フィールドを前方に生成するよ!」 雨弓から視界を渡された、兎賀笈澄診(とがおい すみ)の可愛らしい目が眼鏡の奥で不気味に光る。 《フォーアイズ アナライズ》による魔人能力の完全把握! コワイ! 「コードネーム“不可侵”のザ・ダムド……わかるのはこれだけです。すみません」 「ん~。あたしも知らない名前ねぇ~。研究所で作られた人造魔人ってトコかなぁ~?」 兎賀笈穢璃(とがおい えり)と偽名探偵こまねの、諜報力と分析力が敵情報を補足する。 ただし、ザ・ダムドに関してだけは有益な情報は得られなかった。 「ま、物理完全防御ってことなら、光と音のファンタジーを楽しんでもらおうぜ」 「えぇ~。戦闘に参加する場合は追加料金だからね~」 「そこは遊園地同盟のよしみでサービスしとけよ。な、リーダー。ハッハッハ」 「こーゆー時だけリーダー扱いしないでよぉ~」 愉快そうに話しながら、屈強な雨弓と華奢な駒音(こまね)が連れ立って七ノ宮へと向かった。 ――ふたりの背中を見ながら、穢璃は言い知れぬ不安を感じていた。 (裸繰埜(らくりの)……?) 形のない不安に包まれた穢璃の脳裡に、憎むべき敵一族の名前が浮かんだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『やはり逃げ延びておったか! 我が盟友オレイン卿に仇なす腐れゾッキ本め!』 いままで無言だったラティス卿が、ノートン卿への敵意を顕わにした。 『相手に不足なし。征くぞユキオ、勇ましく進軍せよ!』 「嫌です閣下。俺は逃げるためにココに来たんですよ」 ユキオはスペルを編集し、二ノ宮の広大な堂内に影の迷宮を張り巡らせる! 踵を返して影の階段を登り迷宮に逃げ込むユキオ! 「赤羽の相手はアタシがするよ! 相川ユキオをブッ殺しな!」 朱色の巨大剣を振り上げ、リオがハルに襲いかかる! 『うむ。腐れゾッキ本を引き裂き馬舎の敷き藁にしてくれよう!』 赤い怪物どもがユキオを追って影の迷宮へと乗り込んでゆく! 撃ち込まれた催涙弾の煙がカルロスの姿を包み込む。 内亜柄は早口で一気に説明した。 「奴の《フェイテッド・イージネス》は自動で攻撃と防御を行う空飛ぶ刃を生成するクソ能力で特に防御力は高く物理攻撃は一切通用しないレベルだが制約条件としてカルロスの野郎は能力発動中その場を動けねぇから催涙弾で奴をいぶり出し動いた所をコイツで仕留めるって寸法だ」 手元に『速い』投げナイフが次々に生成される。 カルロスが一歩でも動けば内亜柄のナイフが神速で飛び、それで決着だ。 放水銃の大出力に《レイニーブルー》を上乗せする! その破壊力は特II型駆逐艦・敷波を一撃で中破させるかもしれない程に凄まじい! さらに飛び散った水も操作し、四方八方から水の槍が疾風を襲う! 疾風は致命的な主砲を巧みに避けつつ、周囲からの包囲槍撃は居合いで相殺する! 「“針の雨”!」 大破壊力攻撃は命中しないのを悟った三傘は、水滴を無数の針弾に変えて範囲攻撃! しかし疾風は超高速連続居合い! 針弾の大半を切り落としダメージは蚊に刺された程度! 気付いた時には既に居合いの間合い! 三傘はパラソルを開いて疾風の視界を塞ぐ! そしてすぐ閉じる! ……パラソルが閉じた時、そこに三傘の姿はなかった。 水浸しの床に、水色のパラソルがぱたりと落ちた。 白狼は滑るような足捌きで僅かに身体を横に逸らし紙一重で火炎弾を回避! そして一転、獣の如き荒々しい踏み込みでハレルに迫る! ハレルは袈裟懸けにアメちゃんを振るう! 白狼は紙一重で回避! 能力《至近の神代(かみしろ)》が発動! 白狼の全身が青白く輝く! 2秒間無敵のサイキック・バリアー! 攻撃を紙一重で避け続けテンションを上げることで無敵時間を得る白狼の特殊能力だ! ハレルは手甲による防御を試みるが、無敵モードに入った白狼の攻撃はガード不能! 餓狼の牙のような型の両拳がハレルの肩に噛み付く! 平服甲冑の肩当てが砕け飛ぶ! 「ヒョホホホ。ウェルカム・トゥ・ザ・ファンタジィ・ワアァールド!」 ピエロ姿の追原が手に持った風船を割ると、中から出てきたのは七連装ショットガン! 風船を通じて異世界の超兵器を購入する追原の能力《幻想商店街》! 「へー。面白そうな武器だね」 四葉の手には《モア》で強化複製した八連装ショットガン! 赤く光る怪物どもは影の城壁を平然と通過して迫って来やがる。 驚くようなことじゃない。相手はオレイン卿と同格の殺戮文書なんだからな。 スペルを編集して、右手に影の槍を生成。 絶賛壁抜け中の怪物が持つ朱色の大剣を、槍でひと突きする。 大剣が実体化して、影の壁に引っ掛かる。 ざまあみやがれ。これで少し時間が稼げる。 ユキオは大剣を引き抜こうとしている怪物に背を向 『時間稼ぎが狙いとは言え、逃げてばかりは感心せぬ。そもそも主人公たるもの――』 「お言葉ですが閣下。いかに偉大なる英雄たるノートン卿にあらせましても」 背を向けて駆け出す。 「今回に限っては、脇役なんですよ」 疾風は目を閉じ、三傘の気配を探る。 奏の奇襲すら感知し得た、疾風の察気術をもってしても三傘の気配は一切感じ取れない。 察気範囲をさらに広げる――四ノ宮全域を範囲に収めたが、やはりいない。 逃げたか――疾風の気がわずかに緩んだ瞬間! 突然三傘が姿を現し、疾風の脇腹をパラソルの突きが貫いた! パラソルの付喪神である三傘は、自分自身の一部であるパラソルの中に姿を隠せるのだ! 三傘の奥の手、奇襲技“ミカサノヤマニイデシツキ”! 疾風は居合いで反撃! 三傘はパラソルを引き抜き受ける! 「ふむ……雑魚呼ばわりして失礼した。拙者も奥義にて御相手仕ろう」 疾風は居合いの構え! ただならぬ殺気が溢れる! 【刀語[特](本日の使用回数:13)(使用時間・単位分:7,059)】 「いやいやまいったネ! ヨソウドーリの強敵だヨ!」 「私の剣……完全に見切られてた」 「相手はハレっち以上に百練千摩! おまけに美術館の戦いもしっかり見てるっポイ!」 「紙一重の回避に失敗しても“おいはぎの曲刀”で肉体ダメージはなし……」 「ストップ! いい加減ソレの反省はやめるコト! アメちゃん逆に怒るヨ!」 「ごめん……」 「サクセン立てるヨ! まだ見せてない手札でフイウチ! どう組み立てようカナ!」 「あのね、アメ。私思ったんだけど……」 「ナニ? アメちゃんがカッコいいっテ?」 「あいつの術、『あの魔法』に似てないかな?」 「あ! ソレダ! アメちゃんもソレ言おうとしてたトコ! ホントだヨ!」 …… ………… 【刀語[特]了】 細い身体のどこにこれほどの膂力が備わっているのか。 リオは朱色の巨大剣を軽々と振り回し、ハルを叩き切らんと暴れ狂う! 「まいったな! 怪物どもの相手のが楽だったかもな!」 日本銀行拳の紙幣斬撃が走る! 硬貨の指弾が飛び散る! 「アハハハハッ! 楽しいねー!」 リオは独楽のように回転し遠心力連続攻撃! ハルは靴裏に仕込んだ紙幣を強化して巨大剣を蹴り反動で高く跳躍! リオの頭上より指弾による硬貨の雨が降り注ぐ! 身体を捻って弾幕を回避しながら巨大剣の回転軸を変化させ垂直回転攻撃! 足裏でガードするが弾き飛ばされ、影の城壁に叩きつけられる! BLAM! BLAM! BLAM! BLAM! トリニティ・岩名の二丁マグナム乱れ撃ち! 疾風の居合い抜き! 刃が煌めき銃弾を切り裂く! 既に三傘は瀕死で戦闘不能。岩名も全身切り傷だらけだ。 ズタズタの赤いワンピースが、鮮血で毒々しい斑模様に染まっている! 「微塵となりて滅ぶべし――《塞狭斬》」 疾風の必殺剣! その論理特性は『初見回避不能』! 三傘が斬られた際に、岩名は既にこの技を見ている――しかし! (ふふふ、だからって二撃目なら必ず避けられるわけでもありませんからね) 岩名は避けない! 全身を九閃の斬撃が同時に切り刻む! BLAM! 後手カウンターでマグナム接射! 疾風の右腕が吹き飛ぶ! (奏……後はたのみましたよ……) 「そんなにうまく行くわけないよなぁ?」 催涙ガスの煙が晴れると、悠然と結跏趺坐したままのカルロスの姿が現れた。 周囲の刃が、風車のように組み合わさって回転しカルロス周囲の空気を浄化している! 「そして標的が二倍なら、刃も二倍だぜ! 二人まとめて解体(カランバ)だ!」 更に大量の刃が生成され、九鈴と内亜柄を狙って飛ぶ! 二人は背中合わせになって無数の刃を迎え撃つ。 トングが刃を弾く! ナイフが刃を弾く! 赤い怪物に追われながら、ユキオが影の城壁から飛び出してきた。 「そんじゃ赤羽、そろそろ撤退としようか!」 「オッケー!」 ハルは二ノ宮の壁面を《ミダス最後配当》で換金! ユキオと共に境内へ転がり出る! 壁面の穴が影の城壁で塞がり、中にリオを閉じ込める! パチパチパチ。焼けた木材のはぜる音。 密かにユキオが放った火が燃え上がり、二ノ宮を覆い尽くさんとしていた。 “跳躍 Jump” ハレルは床を蹴って宙高く舞い上がり、白狼の頭上に至る。 “飛行 Flying”+“三段攻撃 Triple strike” 空気を蹴って軌道を変え、急降下連続斬撃を仕掛ける。 しかし、それすらも白狼の対応可能な範囲内。 白狼は一瞬で放たれた連続三連斬を、全て紙一重で回避! テンションが高まり《至近の神代》の発動条件が満たされた! 三連続側転で居合い斬りを回避! 激しい動きだが胸はないので揺れない! ポニーテールも切断されているため揺れない! 全身からおびただしい出血! 誤解がないよう説明しておくと胸は切断されたわけじゃなくて元々ない! 《塞狭斬》は見切り、相手は右腕を失っている。それでもなお奏は劣勢であった。 居合いは辛うじて避け続けているが、奏のナイフも当たらない。 《サウンドオブサイレンス》の無音奇襲も、疾風の察気術には通用しないのだ。 追原が風船を割る! 禍々しく『16t』とペイントされた巨大鉄球が四葉の頭上に出現! 四葉はゴロゴロと床を転がり即死鉄球を間一髪で避ける! あと3mmズレてたらぺしゃんこになっていた所だ――雪山に散ったあの地球人のように! そして四葉はジャンプ! 「《モア》ーッ!」 禍々しく『16.5t』とペイントされた巨大鉄球が追原の頭上に出現! 「ギャアアアーッ!」 直撃したが追原はまだ死なない! とんでもなくタフネス! 二ノ宮が、赤く燃えている。 その壁面を斬り壊し、燃え盛るドレスを身に纏った守羅紗リオがよろよろと現れた。 リオは境内の池に飛び込み、衣服を消火した。その手に魔導書はない。 「アハハハッ! ラティスの奴が燃えちまった! 畜生、自由だ! これでアタシは自由だ!」 池の中に突っ立ち、涙を流しながらリオは大声で笑った。 彼女と『ラティス卿』の関係がいかなるものだったのか、それはわからない。 だが、魔導書を手にして幸せになった奴はいないし、幸せになろうとしている奴もいない。 それだけは確かなことだ。 内亜柄は大声で言った。 「どうやら梃子でも動かねーつもりだな! だったら俺がガードごと叩き潰してやる!」 巨大なハンマーを生成! 雪山で九鈴が持ち上げた氷塊よりもさらに巨大! 「んー? あんたそんなに怪力だったっけ? ハリボテのフェイク! つまり叩き潰す気無し!」 カルロスは内亜柄の台詞が嘘であることを冷静に見破り動かない! 「正解! あんたマヌケ面の割に賢いじゃねえか」 ゴウ! 巨大な光の柱が刃の防御を貫通してカルロスを包み込んだ! 内亜柄の大声による合図を受けた鎌瀬戌(かませ いぬ)の《ヒトヒニヒトカミ》だ! 「叩き潰すのは俺じゃないんだよ! マヌケ野郎め!」 奏はポシェットから文庫本を取り出し、ナイフで背表紙を切断した。 (……ゴメンね) 切り裂いた本に謝罪し、無音領域を展開! 小説の紙吹雪で敵の視界を奪う! 素早い身のこなしで奇襲を狙う奏! だが疾風は察気術によって奏の動きを全て把握している! ――ざくり。後方から飛来したナイフが、疾風の首を切り裂いた。 背後に仕掛けたナイフを、奏がワイヤーワークによって射出したのだ! 「パラソルの奇襲に反応が一瞬遅れていた。あなたの察気術は非生物の感知が鈍い」 「フッ……紙吹雪は視界封じプラス対察気術チャフ、体術全ては陽動か……見事なり!」 疾風の首から吹き出す血飛沫が、トリニティの勝利を告げた。 “警戒 Vigilance”+“先制攻撃 First strike”+“カラテ Karate Lv.3” 白狼が能力を発動しようとするタイミングを見極め一瞬早く! 場に満ちたテンション、すなわちカラテ・エネルギーをハレルが消費した! 異国より伝わりし特異な魔術体系カラテ! 「イイイヤアアアアアーッ!!」 ハレルは後方宙返りを打ちながら白狼の顎を蹴りあげる! 最高位カラテ呪文サマーソルトキックだ! +“二段攻撃 Double Strike”+“アメノハバキリ+98” ハレルは着地後さらに跳ぶ! もう一回転! 顎を砕かれて宙に浮いた白狼を、アメちゃんで垂直に斬り上げる! 白狼の服が“おいはぎの曲刀”の効果ですべて破れ散る! 垂直に吹っ飛ばされた白狼本体が天井に突き刺さる! 時空が歪み極太の波動レーザー砲が放出される! 追原の超次元収縮亜空間砲! 四葉も極太レーザー砲を発射! レーザー同士が二人の中央で激しくぶつかり合う! 渦巻く巨大なレーザー干渉渦は徐々に追原へと近づいてゆく! 四葉の出力が高い! (ぐぅ……すでに赤字でこれ以上はヤバいのだがやむを得ん!) 追原は懐の激痛に内心号泣しながら風船を割り、超次元収縮亜空間砲をもう一門購入! 「そんじゃあ私も《モア》!」 四葉も一門追加! 四本の極太レーザーが激突し、遂にブラックホールが生成された! ブラックホールは空間を削りながら追原の方へと向かってゆく! 「ギャーッ! 亜空間砲のブラックホールに吸い込まれ異次元に飛ばされギャアーッ!」 大穴の空いた、三ノ宮の屋根の上。 鎌瀬戌は澄み切った夜空に輝く星を見上げていた。 心の中で星を繋いで、女性の姿を形作る。 大好きだったシロ姉の姿なら、どこからだって見つけだすことができる。 (やったよ……シロ姉。この俺が他人(ヒト)の力になれたんだぜ……) 二ノ宮 “剣闘士”の守羅紗リオ:『ラティス卿』焼失により戦意喪失 三ノ宮 “放置プレイ”の張・カルロス:落雷により心肺停止 四ノ宮 “初見殺し”の疾風雷禍:出血多量により戦闘不能 五ノ宮 “デアデビル”の飛白狼:全裸で意識不明 六ノ宮 “いつもニコニコ”の追原覇王:消息不明 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 境内から少し離れた路上に、不審なパネルバンが一台、停まっている。 車両のそばに、二人の女性が倒れている。 少し離れた場所に、銃を手にした男性が倒れている。 三人は時折、苦しそうなうめき声を上げるが、それ以外の動きはない。 スモークガラスに隠れた後部座席の中で、通信機器のLED光がまたたいている。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ハルと九鈴は、最後の七ノ宮に辿り着いた。 そこには、雨竜院雨弓と偽名探偵こまねが倒れていた。 砕け散った水槽。 脳味噌がひとつ、落ちている。 七ノ宮 “不可侵”のザ・ダムド:死亡 脳味噌を踏みにじり、女性がひとり、立っている。 医者であろうか――白衣を着て、大きなマスクをつけている。 その姿には、床板を濡らす液体の刺激臭が、よく似合っていた。 「やあ、ご苦労様。七葉グループのお偉い様方には一度挨拶したかったのでね」 白衣の女性は、ハルと九鈴に視線を向けて優しい声で言った。 「宝珠を集めてくれたんだろう? 感謝するよ」 「すまねぇ九鈴。しくじったぜ……」 呻くように、雨弓が言った。 「こいつは裸繰埜病咲風花(らくりのやみさき ふうか)……パンデミックの張本人だよ~」 弱々しい声で、こまねが言った。 「ほう。まだ喋れるのか。なかなか興味深い」 白衣の女性――風花は手に持った注射器型の拳銃を構えた。 「だが邪魔をされると困るので少し眠ってもらうよ――“死痲風(しまかぜ)”」 銃口から霧状にウィルスが噴射され、雨弓とこまねを包み込む。 ふたりは、一瞬で昏倒した。 「くろうの……かたき!」 九鈴は両手のトングをガシャリと鳴らし、怒りに満ちた戦闘態勢をとる。 そんな九鈴を、赤羽ハルは不思議な気分で見ていた。 自分も何か、こいつに対して怒るべき理由があったような気がする。 脳裡に、車椅子の女性がぼんやりと浮かんだが、それが誰なのかはわからなかった。 「ふむ。それは違わないかな? 九郎君の命を奪ったのは――」 風花は、自らが創り出したウィルスに感染した者のバイタル情報を感知できる。 それによって感染者が、どのように苦しみ、死んでいったかを観察しているのだ。 だから、聖槍院九郎がいかにして死んだかについても完全に把握している。 「ゴミが――しゃべるな」 九鈴のトングが唸りを上げて襲い掛かる! 眩暈でよろめくような動作で、風花はトングを回避し注射銃から“死痲風”を噴射! 二本のトングが素早く空間を掴み取る! 《タフグリップ》によるウィルス捕獲! 日本銀行拳! ハルが硬貨弾を連射する! 「ゴフッ! ゴフッ!」 風花は咳き込みながら床にばたりと倒れ、硬貨弾を回避! 自らに感染させたウィルスの発作を利用した酔拳の如きムーブメント! 旋回しながら飛び起き二人から離れる! 「随分と厄介なトングだな――“銑患(せんかん)コラプション”」 再び九鈴に向けてウィルス噴射! 二本のトングが素早く空間を掴み取る! 《タフグリップ》によるウィルス捕獲! だが……ウィルスを捉えたトングが腐食してゆく! 伝説の名工が隕鉄から造り出した名トング『カラス』が! 岩手県のみに産する特殊合金で造られた名トング『ナンブ』が! 錆びた鉄屑となって崩れ落ちる! 金属すらも感染させ滅ぼす、恐るべき風花の《アウトブレイク》ウィルス! 「トングが……バカな……!? ぐうっ……!」 動揺した九鈴をウィルスの霧が包み込み、昏倒させる! 「チィッ! なんて奴だ!」 ハルは床板を《ミダス最後配当》で換金して床下に潜りこむ! 素早く風花の直下に移動! 床を盾にしてウィルスを防ぎながら潜水艦の如く床貫通硬貨弾で攻撃! 「“朽木患(くちきかん)コラプション”」 ふらふらとした動きで硬貨弾を回避しつつ風花は床板にウィルス噴射! 床板が腐り落ち、風花も床下に潜る! その動きを読んでいたハルは、硬化した一万円札を手裏剣めいて投げつける! 眩暈ムーブによって一万円札を紙一重で避ける風花! しかしハルは《ミダス最後配当》の時間差両替炸裂弾を仕込んでいた! 至近距離で、一万円札が全て一円玉に換金――されない! 風花の全身を包むウィルスの毒気が一万円札を蝕み、貨幣価値を失わせていたのだ! 「ぐっ……がふっ……マジかよ……」 ハルの全身を“死痲風”が包み込んだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ わたしはダメだ。 また、掃除できなかった。 ごめんね、くろう。 ごめんね、とうさん。ごめんね、かあさん。 わたしはよわい。 どうしてこんなに弱いのだろう。 トングになろう。 そうだ、わたしは一本の、決して折れないトングになろう。 幸せは要らない。未来も要らない。 愛しい弟を苦しめ死の淵に追いやった憎き敵。 その憎き敵の臓物を掴み、引き摺り出すことさえできれば。 ――それだけでいい。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 聖槍院九鈴が、ゆっくりと、力強く立ち上がった。 全身に力が満ち溢れる。憎き敵を滅ぼすための力が。 怨敵・裸繰埜病咲風花の元へと歩み寄る。 「まだ立ち上がれるとは! なんと素晴らしい被験者であろうか!」 風花は歓喜した。“死痲風”の直撃を喰らってなお立ち上がった者は初めてだ。 《アウトブレイク》のモニタリング能力で九鈴の生体情報を確認する。 ――バイタルサインが、読めない。 「おかしいな。では改めて感染してもらうとしよう」 注射器型拳銃から“死痲風”を再び噴出する。 ウィルスの霧が九鈴を包む! しかし九鈴の歩みは止まらない! 九鈴はトングになったのだ! 九鈴の身体を形作る細胞、ひとつひとつがトングなのだ! 体内に侵入した《アウトブレイク》ウィルスは、トング細胞によって挟み込まれる! そして《タフグリップ》により抑え込まれ即座にウィルス機能を停止する! 風花は狼狽した。“死痲風”連続噴射! 効果無し! 「化け物め! 近付くなーッ!」 九鈴の顔面に拳で殴りかかる風花! 頬に命中した拳は、そのまま頬の表皮細胞に《タフグリップ》で固定される! 緩慢な動作で、九鈴は風花の喉を掴み、押し倒した。 九鈴の右腕が、風化の胸にざくりと差し込まれ心臓を掴む。 「では、ころします」 淡々と、そう告げた。 「やめろ! やめろッ! 私を殺して弟が喜ぶとでも思っているのか!」 苦し紛れに風花が呻いた言葉に、九鈴の動きが止まった。 「ころしちゃ……だめだ……。くろうを……よろこばせなきゃ……」 九鈴は、心臓から手を離した。 「じっくりしなきゃ。ゆっくり……できるだけ、くるしめて……」 その表情は、満面の笑顔だった。 九鈴は今まで、楽しみのために殺人を行ったことはない。 くりんは、これから、はじめて、たのしんで、ころします。 みててね、くろう。おねえさん、がんばるよ。 九鈴の楽しそうな笑顔を見て、風花の脳内一杯に恐怖の感情が満ちた。 そして、風花の頭部は爆発四散した。 「九鈴さん……ぜんぶ自分で掃除しようとしちゃあいけないぜ」 ハルの撃ち込んだ日本銀行拳の硬貨が風花にとどめを刺したのだ。 「殺すのは、暗殺者の仕事だぜ」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 長々と終わらぬ会議に、七葉樹落葉(ななはぎ おちば)は焦れていた。 結局のところ他の頭首たちは、賞金、副賞を払いたくないだけなのだ。 払わない理由が少しでもあれば、それに拘泥し、出し渋る。 理由がなければ、延々と理由を探し続ける。 14歳の若さにして七葉グループの総帥を務める落葉の権力基盤は不安定だ。 ゆえに、筋が通っていない意見に対しても、強硬な態度には出られない。 苛立つ落葉に、森田一郎(もりた いちろう)が音も無く近付き、耳打ちした。 険しかった落葉の表情が、少し緩んだ。 「諸君。話題の御二方が直接来たようだ!」 「馬鹿な……この僅かな時間であの『七人』を倒したというのか!?」 「おそろしい……」 「やはり奴らは『世界の敵』……!!」 「南無阿弥陀仏……」 落葉の台詞に、ざわつく権力者たち。 「ザ・キングオブトワイライト優勝者、赤羽ハル様。 並びに裏トーナメント優勝者、聖槍院九鈴様。お入りください」 森田に促され、ハルと九鈴が夏菅大社の祭殿に姿を現した。 その全身は傷だらけで、激しい戦いの痕を物語る。 風花の死によってウィルスは力を弱めたが、ふたりに残された体力は僅かだ。 「ハル様。九鈴様。どうぞ御用件をお話しください」 赤羽ハルが言った。 「あー、言いたいことは色々あるが……『契約は守れ』まずは、それだけだ」 饒舌な彼らしくもなく簡潔な意見だった。 だが言外に、契約に反した場合は手段を選ばず抗う決意が込められていた。 そして、九鈴も続けた。 「『そうじしなさい』特に、汚れた己の心を。私から言うべきことは以上です」 彼女の意見も簡潔だった。 だが、何をしでかすか分らない度で言えばハル以上かもしれない雰囲気だった。 「聞いたか貴様ら!」 落葉が、怒声を上げた。 「彼らは、世界の全てを敵に回して戦うことができる力を持った魔人だ! その魔人の望みを聞いたか?『あたりまえのことをしろ』それだけだ! 参加者の中には、確かに邪悪な奴も居た! だが、参加した選手全てが、己の目標のため全力で戦った! その結果として勝ち残った二人に、貴様らは裏切りを働くつもりか! 裏切りの果てに、彼らを『世界の敵』にするつもりか! あさましき者どもめ! 恥を知れ! 本当の『世界の敵』が誰なのか、貴様らが一番よく解っておろう!」 落葉に反論するものは、もはやいなかった。 三傘山の上に昇った満月が、静かに光を投げ掛けていた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 【聖槍院九鈴・エピローグ「逮捕」】 病院から九鈴が現れると、報道陣のカメラが一斉にフラッシュを浴びせた。 光に包まれながら、九鈴は背筋を伸ばししっかりとした足取りで歩いた。 毛布に包まれた両腕には魔人拘束錠が填められているが、その心は解放されていた。 九鈴は、掃除を成し遂げたのだ。 拘置所へと向かう魔人護送車の座席に深く腰を掛け、九鈴は瞳を閉じた。 瞳を閉じて、今は亡き父と、母と、弟のことを想った。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 【赤羽ハル・エピローグ「目撃者」】 なんとか賞金を手に入れたものの、ハルの借金は依然として膨大だ。 副賞として割のいい仕事を回してもらえているため、辛うじて死なずにすんでいる。 今夜も仕事でとある病院に来ている。 七葉グループの金を横領した悪徳医師の『自殺』を見届けるだけの簡単なお仕事だ。 屋上から地面に落ちてグシャリと潰れた姿を確認して振り向くと――。 そこに、車椅子に乗った女性がいた。 熟練の暗殺者であるハルが、背後の人物に気付かぬことなどありえない。 なぜ、“ハルの意識から彼女の存在が消えていた”のだろうか。 目撃者は消さなければならない。 だがハルは、理由のわからぬままに、彼女を殺すことはできないと直感していた。 荒涼とした男だった。 まるで若いチンピラのような印象を与える、刺々しい金髪。 革ジャケットの下には、お世辞にも趣味の良くないチェック地のシャツ。 男は、暗殺者だった。 今まさに、リサイクル箱に空き缶を放り込むような気軽さで、人を突き落としていた。 だが、彼の姿を見た瞬間、なぜか胸に暖かいものがこみ上げた。 奇跡的に視力を取り戻しつつある白詰智広の目から、理由のわからぬ涙が溢れ続けた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 【高島平四葉・エピローグ「消された過去と、白紙の未来」】 東京を遠く離れた、小さな村落。 ローターの爆音を響かせ、小型のヘリコプターが小学校の運動場にゆっくり着陸した。 「はあい、ついたよん!」 操縦士の少年は、隣の席で眠りこけている少女を揺り起こす。 ヘリに乗っている二人の魔人は、どちらも10歳前後の年齢である。 「ん……ありがと。じゃあまたね」 目を覚ました少女、高島平四葉は少年に礼を言い、校庭にぴょん、と飛び降りた。 「バイバイ。こんどは仕事ヌキで遊びたいな」 操縦士ボーイは笑顔でにっこり挨拶した。 ホエールラボラトリ社の忠実な端末である彼は、残忍な任務もこなす危険な魔人だ。 黄樺地セニオを襲撃し、瀕死の重傷を負わせたように。 だが、プライベートでは年相応の幼い一面もある。 飛び去るヘリを見送りながら、四葉は両手を上げぐいっと伸びをした。 そして、ヘリの下に広がる懐かしい故郷の風景を見て、ちょこんと首を傾げる。 かつてこの地で、幼い四葉の身の上に陰惨な出来事が降りかかった。 その出来事については、あまりに悍(おぞ)まし過ぎてここに記すことはできない。 教師も、友人も、家族も、四葉の味方にはなってくれなかった。みんな敵だった。 やがて四葉は魔人として覚醒し、強化型ウィルスを撒き、故郷の人々を皆殺しにした。 ――そんな、悲しい時間軸も、存在した。 文字通りに『世界の敵』であった四葉の過去は徹底的な改竄を受けている。 もはや、四葉に辛く悲惨な過去は無く、故郷にパンデミックを起こした事実もない。 では何故、四葉は魔人で、《モア》を使えるのだろうか。 その辺は、セニオの世界平和なら細かいことはまーいっしょ的アバウトさでウヤムヤだ。 マジパネェとしか言いようがない。 いずれは世界の恒常性維持機能が働き、細かい辻褄も次第に合ってくるだろう。 世界改変が生んだ様々な矛盾が消えた時が、セニオの魔法が終わる時かもしれない。 魔法が解けた後、再び破滅に向かってゆくのか、とこしえに平和が続くのか。 白紙の未来を開く鍵は、世界に住む人々全ての手に、少しずつ分け与えられている。 とりあえず四葉は、久々に家に帰り、ご飯を食べて、いっぱい話をすることにした。 お母さんとお父さんに話したいことが、それはもう、いっぱいいっぱいあるのだ。 それから――どうしよう。 やっぱり目指すは世界征服、かな。 「マイ目標イィーズ、セカァー、ウィー、セェーイ、フゥーク!」 言ってみて、ちょっと今のは馬鹿みたいだったなと思い、四葉は笑った。 無邪気に、邪悪に、笑った。 (おわり) このページのトップに戻る|トップページに戻る